草木のことのは



【 春 】  【 夏 】  【 秋 】  【 冬 】 

■ 秋の章 


季語 1   天上の華てんじょうのはな

燃える花、曼珠紗華は、夏の花々が色を失ったころ、一斉に空に向かって炎を上げる。
天から降りた赤い大きい花の意で、天上の華ともよばれる。

季語 2   鹿鳴草しかなぐさ

鹿鳴草は萩をいいます。
万葉集では、宮廷人から庶民まで、もっとも好んで詠われた植物です。

季語 3   香草かおりぐさ

フジバカマのことをいい、香りよく香草の名もある。
出陣前に武士が兜に焚きこめたといわれます。

季語 4   紫式部むらさきしきぶ

花よりも紫の実がめでられます。
紫珠とよばれ、小鳥も好んで食べます。。

季語 5   富草とみくさ

長く稲作は産業の中心で、国中でイネの豊作が祈られました。
富草、田の実、たのしみ草など、イネの別名がそのことを物語っています。

季語 6   公孫樹こうそんじゅ

秋のイチョウは、まさに黄金色です。
公孫樹という立派な名前は、種を蒔いたあと、孫の代で実をつけ始めるからという。

季語 7   野狭草のもせぐさ

秋の野原は、名もない草花の控えめな色で、柔らかい中間色をなしている。
花野、大花野とよぶが、その野原が狭くなるほど一面に咲く千草、百草を、野狭草という。

季語 8   赤飯あかまんま

ままごと遊びのイヌタデの花です。
茎の先に赤紫の小さな花がたくさんつき、それが赤飯のように見えるので、赤飯とよばれる。

季語 9   下紅葉したもみじ

木々は人間が気づかないうちに下のほうの枝から紅葉する。
そう考えられていたので、下紅葉という言葉が生まれた。草も一斉に色ずく秋、視線の下の方から色が変わる語感が美しい。

季語 10   黄落こうらく

黄葉と書きたい気もあるが、葉が落ちれば黄落である。。
イチョウが代表的だが、ナラ、クヌギなどの葉の色もまさに秋色。。

季語 11   色葉散るいろはちる

春の桜に秋の紅葉は並び称されるとおり、紅葉は枝にとどまる美しさと散るはかなさ、落ちた後の鮮やかさなど絶品です。
照る紅葉のさなか、葉が風に舞う状態を色葉散るという。

季語 12   草の錦くさのにしき

木々の紅葉に前後して、草も錦に色ずく。
このことを草の錦という。

季語 13   茸狩たけがり

茸は木の子だが菌とも書く。
古くは”くさびら”ともよばれた。秋の山は限りなく神秘、茸狩は北向きの斜面が定石というが。

季語 14   木の実降るきのみふる

木の実が落ちる音は、実が大地に帰るよう。これを木の実降ると美しくいう。
また、木の実を濡らすように降るこの時期の雨は、木の実雨という。

季語 15   柞の森ははそのもり

柞はナラ、クヌギなどの木の総称で、柞の森とはいわゆる雑木林です。
色ずくとそれぞれの木の表情が美しい。それを雑木紅葉という。

季語 16   秋果しゅうか

秋の果物を総称して秋果という。
秋の陽を浴びて光る実の色は暖か。

季語 17   えびかずらえびかずら

古事記にあるえびかずらはブドウをいいます。
日本で最初のワイナリーは、川上善兵衛が自宅の庭に作ったぶどう園で、明治30年に葡萄酒として売り出された。

季語 18   苅田面かりたづら

稲刈りがすんだ田は、切り株が規則的に並ぶ幾何学模様です。
藁色のほかに混じる暖色もなく潔い。あぜ道に区切られた刈田は、ひと夏の栄えの余韻を抱いて横たわっている。

>季語 19   葉風はかぜ

オギのススキなどが風を受けてかすかに動かすさまを、”そよ”と表現した。
聞こえる音は”そよそよ”。他に”そよめく””そよめき”などの言葉も生まれた。葉をゆする、かすかな秋風は葉風。

季語 20   花のおさまりはなのおさまり

果実についている花の名残は”ヘタ”で、花おさまりともいう。
風雨と病虫害に耐えて熟した実は、花の名残をほんのちょっとだけつけている。