夏 の 章  V


季語 1   秋近し (あきちかし)

〔秋の境〕〔秋迫る〕

夏の土用のさ中とは言え、朝晩涼しくなったり、虫やヒグラシの声が聞こえてきますと、秋近しを実感します。


季語 2   夏闌 (なつたけなわ)

〔夏深し〕〔夏さぶ〕

「闌(たけなわ)」は「酣(たけなわ)」と同義で、盛りを過ぎて衰退に向かう間際のことですから、秋の予感を表しています。
夏深しには、しみじみとした情感が伴いますが、同じ意味の晩夏ですと、やや情感が抑えられます。


季語 3   秋隣 (あきとなり)

〔秋の隣〕〕

秋近しと同義語に使われている季語ですが、秋隣とは微妙に違います。 秋近しですと、暦上の秋の接近しか見えませんが、秋隣や秋隣るには、肌で感じる秋の予感、例えば光の濃度や風の気配、空気の乾湿、草木の茂りなどに秋を感じる五感があります。


季語 4   初嵐 (はつあらし)

秋の初めに吹く強い風を指していますが、畑のトウキビがこの風で吹き鳴るので、畑嵐という説もあります。


季語 5   夏の果て (なつのはて)

〔夏終わる〕〔夏の別れ〕

傍題の季語も含めどの季語にも、過ぎ去ってゆく夏への愛情の念が込められています。
夏の陽から、秋の陰へ転ずるところに生まれた情感なのでしょう。


季語 6   星月夜 (ほしづきよ)

〔星明り〕

夏の熱っぽい星を見た後の、秋の星月夜はまた格別です。
読み方に「ほしづきよ」と「ほしずくよ」の両方がありますが、「ほしずくよ」の方が古いかたちです。


季語 7   残暑 (ざんしょ)

〔残る暑さ〕〔秋暑し〕

暦の上では、土用が明けて立秋になってからの暑さ残暑ですが、現代では陽暦を使っていますから、その差の分だけ古人より暑さを厳しく感じるのかも知れません。
また立秋という言葉に導かれて、光や風、夜空などに秋の気配を予感しますから、相も変わらない暑さに「秋になったのに」という怨みがましい気持ちが残るものです。


季語 8   夏の露 (なつのつゆ)

〔露涼し〕

夏の間に茂った下草を刈ったり、あるいは夏の高原を散策している折など、手や裾を露で濡れることがあり、こんな時思わず涼やかな気分になったりします。
これがまた露涼しの季語です。


季語 9   涼風 (すずかぜ)

〔風涼し〕

夏も終わりの頃に感じる風を言いますが、この時分は南高北低の夏の気圧配置が崩れ、ともすると涼風が吹いてきます。
また台風の過ぎ去った後に北の風が吹くことがあります。
気象上の実際より、あるかなきかの風にも「涼」を感じます。


季語 10   夏深し (なつふかし)

〔夏さぶ〕〔夏闌(なつたけなわ)〕

暦の上では、立秋の前の十八間が土用で、夏の盛りです。
ですから暑い盛りなのですが、古人はその「深し」に「終わり」の思いを添えてきました。
古歌の多くには、夏深しの思いに秋の気配を重ねて詠んでいました。