春 の 章 V


季語 1    蜃気楼 (しんきろう)

〔海市(かいし)〕〔貝楼(かいろう)〕

季語の中には奇想天外のものも随分ありますが、蜃気楼もそのたぐいです。
蜃は大蛤のことですが、この蜃が吐く気で空中に楼閣ができると、昔の人は信じていました。
富山湾の蜃気楼はとくに有名です。


季語 2   花曇 (はなぐもり)

〔養花天(ようかてん)〕

桜前線は一日45キロの速度で北上すると言います。
咲いている間中、雨や風や風のないことはごくまれで、その花季の曇りを花曇といいます


季語 3   春陰 (しゅんいん)

花曇や鳥曇、鰊曇などのように、他の景物と合わせることで、同じ曇り空でも、それぞれに日本人は情感をこめてきましたが、春陰は春の曇り空を唯一ストレートにいった言葉です。


季語 4   春雨 (はるさめ)

〔春の雨〕

冷たい冬の雨や大降りの夏の雨ですと傘も要りますが、しとしとと降る春の雨なら傘を持たずに外出できます。


季語 5   朧月夜 (おぼろづきよ)

〔朧夜〕

照りもせず曇りもしない春の夜に、月にぼんやりした輪ができ、これを暈(かさ)とよび、この暈が月にかかると朧月になります。


季語 6   風ひかる (かぜひかる)

〔風やわらか〕

日差しも強くなり、木々の芽を渡る風にも心なしか光りが感じられるころあいです。


季語 7   陽炎 (かげろう)

〔糸遊(いとゆう〕〔野馬(やば)〕〔かげろい〕

春の日差しに暖められて地面から立ちのぼる水蒸気によって光りが屈折し、遠景が揺らめいてみえる現象で、日差しの強くなる春にとくに現れるので春の季語としています。


季語 8   長閑 (のどか)

〔のどけし〕〔のどやか〕

一般的には穏やかで静かな様子のことですが、季語としては、春の日差しの穏やかなさまを差す。


季語 9   麗らか (うららか)

〔うらら〕〔麗日〕

日差しがやわらいでのどかな様子を指す季語です。


>季語 10   日水 (にっすい)

〔永日〕〔日永し〕

冬至から「畳みの目一目ずつ延びる」は言い古されたことわざですが、昼夜の永さが同じ春分の日を過ぎると日永の思いは一層強まります。
日が短くなると気も急ぎますが、逆に永くなると心もゆったりします。


季語 11   田打 (たうち)

〔春田打〕〔田を返す〕〔田越し〕〔田を鋤く〕

田植えに備えて、鋤で田を打ち返すことを田打と呼んでいましたが、牛馬に引かせる唐鋤(からすき)が入ってきてからは、田越し、田返しの趣が強くなり、さらに最近では機械化が進み、農村の春の風景は一変しました。


季語 12   春障子 (はるしょうじ)

〔春の障子〕

朝の目覚めの床の中で真っ先に感じるのは、障子などに差す光りの明るさです。
その明るさに微妙に季節が映し出されて、春先なら芽吹き前の木の影を透して、春の光りを感じます。


季語 13   鳥帰る (とりかえる)

〔帰る鳥〕〔鳥引く〕

日本に秋渡って来て越冬した渡り鳥が、北の繁殖地に帰ります。
雁や鴨、鶴、白鳥などの大型の鳥から、鶫(つぐみ)、鶸(ひわ)などの小型の鳥まで合わせると、夏鳥に比べ相当な種類になり、「帰る」は繁殖地に向かう鳥に限っていいます。


季語 14   水温む (みずぬるむ)

〔温む水〕

このころになると、鳥や魚や小動物たちが春の営みを始めます。
秋に北から渡ってきた雁や鴨、鶴、白鳥などは帰る準備にかかります。
冬眠していた鮒は産卵のため細い小川から水田にまで入ってきます。これが春の季語にもなる「乗込鮒」(のっこみぶな)です。


季語 15   春の野 (はるのの)

〔春野〕〔春郊〕〔弥生野〕

草萌えの始まった野、野焼きを終えた野、すみれやれんげの咲く野、ひばりの声高く鳴く野、いろんな春の野が想像できます。