春のことのは



春 の 章 T


季語 1   春の雲 (はるのくも)

〔春雲〕

一口に「春の雲」といっても二つあります。
晴れた空に薄く刷いたように見える雲が券層雲で、ふわりと浮かぶ白雲、つまりこれが積雲です。
春の雲には「朧」(おぼろ)のイメージがあります。


/季語 2   春光 (しゅんこう)

〔春の色〕〔春景色〕〔春の匂い〕

「春の日」は日光をさしますが、「春光」春の風光すなわち、春のやわらかい日の光りをいいます。
春は空と地中からいち早く動き始めるという通り、光りと影が相まって春を実感させる言葉といえます。


季語 3   春の山 (はるのやま)

〔春山〕〔春嶺〕

冬のたたずまいを残しながらも、春の山にはどこか生気があふれています。
山焼きの後の残る山、下萌えや芽吹きの始まった山や斑雪の見える山と、遠近、高低によって見え方は違います。


季語 4   春疾風 (はるはやて)

〔春嵐〕〔春荒〕

春の天気は変わりやすく、低気圧が日本海を通過するとき、春嵐が起きやすくなります。
一日中強い南風が吹きまくり、砂塵を天に舞い上げながら、気温は上昇します。



季語 5   啓蟄 (けいちつ)



二十四節季の一つで、陽暦の三月六日(今年は五日)ころにに当たります。
土中で冬眠していた昆虫類が穴を出るころで、このころ鳴る雷を「虫出しの雷」と呼んでいます。
またこの時期は、哺乳類や爬虫類、両棲類も冬眠から覚めて出てきます。


季語 6   ものの芽 (もののめ)

〔芽〕

「下萌」「木の芽」「草の芽」もありますが、それらを総称したのが「ものの芽」です。
菊の芽、柳の芽といった個々の芽吹きではなく、山々が海藻色にほんのり変わったり、枯野が心なしか青んで見えてくる場合、あるいは芽吹きを誘う雨や風も含めて、そのころの季節がトータルに見えてくる季節の言葉とも言えます。


季語 7   下萌 (したもえ)

〔草萌〕〔草青む〕

早春の頃、枯れ草や残雪の中から草がわずかに顔を出し始めることを「下萌」といいます。


季語 8   薄氷 (うすらい)

〔春の氷〕

冬から春の季節の移ろいも、絵巻物を見るように変化します。
だいぶ暖かくなって、よもや氷など張るまいと思っていた朝、思いがけなく薄氷を見ることがあります。
「寒の戻り」「余寒」などと同様、初春の微妙な陽気の変化を言い当てた季語です。


季語 9   東風 (こち)

〔西東風〕〔朝東風〕〔夕東風〕〔強東風〕〔雲雀東風〕〔桜東風〕

王朝時代より、凍てを解き春を告げる風、梅を開花させる風として多くの歌に詠まれてきました。
太平洋から大陸に向かって吹く柔らかい東風。


季語 10   魚氷に上る (うおひにのぼる)



氷の割れ目から魚が躍り出て、氷の上に乗る、というやや荒唐無稽の言葉ですが、俳人はわりに好んで使っています。


季語 11   凍解 (いてどけ)

〔凍て解ける〕〔凍てゆるむ〕

春の気配が感じられるころになると、それまで凍てついたものが一斉に解けはじめます。
大地や川などの自然だけてなく、滝も雲も、また蝶や蜂の昆虫までもが、凍てから開放され始めます。


季語 12   余寒 (よかん)

〔残る寒さ〕

春の寒さ、冷たさを表す言葉ですが、「余寒」には寒さが明けたのにという、やや怨みがましい思いも込められています。


季語 13   春寒 (はるさむ)

〔春寒〕〔料峭(りょうしょう)〕

春の寒さや冷たさをいう季語は「冴え返る」「余寒」、それに「春寒」といろいろありますが、それぞれに少しずつの違いがあり、「春寒」は春という語感に心をよせながら感じる寒さのことで、いささか情緒的です。


季語 14   早春 (そうしゅん)

〔春早し〕〔春淡し〕

「春は名のみの」という挨拶の言葉通り、寒の戻りや余寒もあって、立春からしばらくの間は寒い日が続きます。 とはいえ、草木に芽吹きが見られ、吹く風に心なしか春の予兆を感じます。



季語 15   如月 (きさらぎ)

〔初花月〕〔梅見月〕

陰暦二月の異称「如月」語源にはいろいろありますが、「衣更着」がもっともふさわしい言葉です。
寒いのでどんどん重ね着をして着膨れた古人の姿が思われる。