夏 の 章 T


季語 1   花笑み (はなえみ)


花笑みは百合の花が開くときのノーブルなさま。 ひとり百合についてだけいい、ほかの花には使わない。人が美しく微笑むときにも「草深百合の花笑み」という。


季語 2   ドクダミ (どくだみ)
〔十薬〕

その強い悪臭から手腐れと呼んだり、毒草と思われがちですが、さにあらずです。
「どくだみ」の名前からして「毒を矯める」ですから、薬草なんです。
植物を十種類もあわせたくらいの薬効があることから、「十薬」とも呼ばれています。
四枚の花びらは数字の「十」にも見えてきます。


季語 3   梔子の花 (くちなしのはな)
〔花梔子〕〔山梔子〕

梅雨の頃の匂いはと問われると、この花の香を連想します。
実は染料として染物や料理に使われ、梔子色とは赤みのある黄色のことを言います。


季語 4   紫陽花 (あじさい)
〔七変化〕〔手毬花〕

長い梅雨の間をなごませてくれるのが紫陽花です。
白に始まって青、紫、淡赤と変身するこの花を古人は、七変化、八仙花と呼び、日に日に変わる彩を楽しみました。


季語 5   梅雨の月 (つゆのつき) いろいろな歳時記で、雨や雲天の続いた後の晴れた日の月と書き、思いがけずに出会った月と解説しています。


季語 6   梅雨寒 (つゆざむ)
〔梅雨寒し〕〔梅雨冷〕

太平洋から張り出してくる暑い気団と、北方の寒気団のせめぎあいが梅雨前線ですが、時には弱いはずの寒気団が勢力を盛り返してくると、梅雨寒になります。
体調を崩すのもこんなときですし、梅雨寒が長く続くと冷害の心配もでてきます。


季語 7   青梅雨 (あおつゆ)
〔梅雨雲〕

梅雨の頃はまた新緑のころですから、そこに降る雨を青梅雨と見立てた先人には頭が下がります。
夏の季語には「青嵐」「青簾」「青東風」「青葉潮」「青水無月」などのように、ことさら「青」を強調したものが多くみられます。


季語 8   万緑 (ばんりょく)

夏の盛りの草木が、最も緑を濃く湛えている様子を言います。


季語 9   青嵐 (あおあらし)
〔風青し〕〔夏嵐〕

青葉を揺らし爽やかに吹く風のことをこう呼んでいます。
同じ南風でも南風(はえ)と読むと、近畿以西の漁師や船乗りによろこばれる順風のことになる。


季語 10   麦の秋 (むぎのあき)
〔麦秋〕

麦の黄ばむ頃を麦の秋といいます。
「秋」の言語をたどると、穀物の成熟収穫の季節ということですが、麦の秋の言い方は、季節は夏でも理にかなうことになります。


季語 11   走り梅雨 (はしりづゆ)
〔前梅雨〕〔迎え梅雨〕

梅雨は気まぐれで、この雨で本格的な梅雨に入るのかと思っていると、また晴天の日が続くという具合が、走り梅雨の端地梅雨らしいところでしょう。
気象庁は梅雨入りも梅雨明けも宣言するのを止めましたが、どだい役所が宣言する仕事でもないのです。
「迎え梅雨」や「送り梅雨」といった庶民の悠々の気息にはかなわないものです。


季語 12   夏めく (なつめく)
〔夏兆す〕

夏めくには、春なのにどこか夏らしくなった意と、夏になって季候、風物がそれらしくなったの両がありますが、歳時記では後者の意をととって夏の季語にしています。


季語 13   薄暑 (はくしょ) 少し暑さをおぼえる程度の初夏の陽気を言います。
暑さの表現を「薄い」ととらえるのは日本人独特の表現です。「若夏」の若いの働きも同じです。